これまでの日本の農家は、家族経営の小規模な農家が多く、高齢化が進み事業承継の問題も生じています。農業をビジネスとして発展させるには法人化することを検討してみてはいかがでしょうか。
農業法人とは、農業経営を行っている法人の総称で、具体的には株式会社、持分会社(合名会社、合資会社、合同会社)、農事組合法人という形態に分かれます。
農事組合法人は、事業の範囲が、農業に関する共同利用施設の設置・農作業の共同化に関する事業、農業経営とその付帯事業に制限され、構成員としての組合員も①農民、②農業協同組合、③農業協同組合連合会、④農事組合法人に農地等の現物出資を行った農地中間管理機構、⑤農事組合法人の事業にかかる物資の供給もしくは役務の提供を受ける者または事業の円滑化に寄与するもので政令に定める者、という制限があります。
ですから、実際にこれから農業法人を設立する場合は、事業の範囲に制限がなく、株主としての資格にも特段制限のない株式会社として設立するのが最も一般的ではないかと思われます。
農業経営体自体の数が減少している反面、農業法人の数が増えているのが我が国の農業の現状です。新たな法人の農業への新規参入だけではなく、既存の農家の中にもスムーズな事業承継や収益拡大のために法人化を検討する農家が増えてきています。ただし、法人化に伴って生じる義務もあり、そのために発生する費用もあります。他方でこれらの義務をきちんと守ることにより得られるメリットがあります。法人化をするかどうかに際しては、法人化することによる生じる義務及び負担と法人化によって得られるメリットを正しく把握しておくことが不可欠です。
・財務諸表の作成が義務となります。
税理士・会計士の費用負担が必要になります。
・従業員がいれば労働保険、社会保険の加入が義務となります。
労働保険料・社会保険料の負担が生じます。
その他のデメリット
・個人の農地等を法人が取得する場合、譲渡した個人に譲渡所得税が発生する場合があります。
実は法人化のメリットには法人化に伴う義務や負担と表裏一体であるものもあります。
・法人化により財務諸表の作成が義務付けられることで、経営状態がより外部からわかりやすくなります。そして、経営状態が分かりやすくなることで金融機関や取引先の信用がアップします。
・法人化により労働保険、社会保険の加入が義務付けられることは、従業金にとっては福利厚生が充実しているということになります。
福利厚生が充実することで優秀な人材の確保につながります。優秀な人材の確保は収益を拡大する上で非常に重要です。
・法人化により役員報酬を経費として計上できるという税務面のメリットもあります。
・法人化すれば、後継者への株式の譲渡、持ち分の譲渡により承継が可能になるため事業承継をスムーズに行うことができるというメリットがあります。
すなわち、個人の場合には、例えば子どもに事業承継する場合には、農地や農業機械を後継者である子どもに譲渡する必要がありますが、農地の移転には農業委員会の許可が必要となります。
これに対し、法人化していれば、株式や持ち分を後継者である子どもに譲渡することで事業承継を行うことができます。
農林水産省が推奨する農業の6次産業化の取り組みは、生産から加工、販売までを通した戦略的な経営を行うことてあり、生産から販売までを通した戦略的経営を行うには、経営状態を正しく把握すること不可欠です。そして、経営状態を正確に把握するには財務諸表の作成は非常に有効であり、6次産業化に取り組むには法人化することが望ましいといえます。
また、生産から加工、販売までをカバーするためには当然、従業員の人数も増加せざるをえません。さらに、生産、加工、販売それぞれ専門的なスキルを持つ人材を確保することが必要となります。そして、専門的なスキルを持った優秀な人材を確保するには、労働保険、社会保険に加入し魅力的な職場環境を整備することが必要となります。
6次産業化による新しい農業ビジネスを目指すには法人化することが非常に有益です。
これから法人化を検討する場合について最もポピュラーな株式会社として設立する手続きは次のようになります。
まず株式会社に出資する発起人を確定し、その後発起人間で協議し、これから設立する株式会社の基本的事項(会社の事業目的、商号、本店所在地、資本金の額、各発起人の出資額、設立時の役員)を定めます。なお、農地所有適格法人となるためには農業関係者が議決権の過半数を占める必要がありますので注意が必要です。
発起人間で話し合った内容に従って株式会社の憲法ともいうべき定款を作成し公証役場で公証人の認証を受けます。
発起人が銀行口座を開設し、発起人間での協議に基づき定款に記載した資本金の額を開設した銀行口座に振り込み、払い込みを証明する書面の発行を受けます。
法務局に認証済みの定款や資本金の払い込みを証明する書面等を添付して会社の設立登記を申請します。