農業経営を行うにあたっては様々なリスクがあります。農産物の取引に伴うリスクや従業員の労務管理のリスクについては他のページで述べましたが、その方にも農作業従事者の農作業中の事故、周辺住民とのトラブルなどといったリスクが考えられます。
農業従事者の農作業中の事故は、農業経営に大きな影響を及ぼします。特に、死亡事故や重篤な後遺障害が生じるような事故は、その後の農業経営の存続を危うくする可能性もあります。
農作業中の事故には、トラクターやコンバインといった農業機械操作中の事故や、高所からの転落事故、作業中の熱中症の発症といったものが挙げられます。死亡事故も毎年年間300件前後発生しています。農業経営者は、従業員の生命と安全を守るため、安全配慮義務を負っています。農業事故を防ぐための安全管理は必要不可欠です。
農作業中の事故防止には農機具の整備、従業員に対する安全教育、労働環境の整備を適切に行う必要があります。
従業員に対する安全教育については、労働安全衛生法は、経営者に従業員を雇い入れた時に、遅滞なく安全衛生について必要な事項についての教育を行うことを義務づけています(労働安全衛生法59条1項)また、雇い入れた時の安全教育とは別に、作業内容に変更が生じたときには変更後の作業内容について安全教育を行うことも労働安全衛生法上義務告げられています(労働安全衛生法59条2項)。
農業経営において、周辺住民とのトラブルが起きることを防ぐ必要があります。農業経営において周辺住民とのトラブルとして考えられるのは、悪臭についてのトラブルです。特に畜産、養鶏、酪農のように動物、鳥類を飼育する農業の場合、糞尿による悪臭の発生は不可避であり、悪臭防止法という法律による規制がありますので、規制を遵守することがまずは必要です。
まずは、悪臭防止法は、町村については都道府県知事が、市については市長が、事業によって生じる悪臭原因物について規制する地域を指定するとともに(悪臭防止法3条)、指定した地域における規制基準を定めるとしています(悪臭防止法4条)。
規制基準は、アンモニア、硫化水素といった悪臭の原因となる物質(特定悪臭物質)を指定し、物質ごとに事業場の隣地との境界における濃度の基準を定めて規制するとともに、濃度規制だけでは不十分な地域については、人の嗅覚を用いる臭いの強さの指標である臭気指数で規制します。
市町村長は、規制基準を充たさない事業所に対しては、改善勧告や改善命令を発することができ、改善命令に従わない場合には罰則が設けられています。
農業経営においても、農産物の生産の過程で廃棄物が生じます。このように農業経営において生じた廃棄物については、廃棄物の処理について定めた「廃棄物の処理及び清掃に関する法律」(以下「廃棄物処理法」といいます。)という法律の規定に従って適正に処理する必要があります。
廃棄物処理法で定める「廃棄物」とは、「ごみ、粗大ごみ、燃え殻、汚泥、糞尿、廃油、廃酸、廃アルカリ、動物の死体そのた汚物または不要物であって固形または液状のもの(放射性物質及びこれによって汚染されたものを除く)」とされています(廃棄物処理法2条)。ごみ、粗大ごみその他の例示はありますが、要するに「不要物」と言えるかどうかがポイントになります。
不要物かどうかの判断要素としては当該排出物が、市場で有償で取引されているか(不要物かどうかについて否定的な判断要素)、排出物を占有しているものが有償で譲渡する意思を有しているか(不要物かどうかについて否定的な判断要素)などが考慮されます。そして、ここで不要物であることを否定する要素としての「有償」とは、排出物を取得する側が対価を支払うことを意味するのであり、排出物を取得する側に対して譲り渡す側が対価を払う場合には、むしろ不要物であることを肯定する要素となります。
廃棄物がどうかについて、判断が付きにくい場合には、行政の見解を確認するのが賢明です。